「エヘヤ・ノアラ(1933)」は、崔承喜の朝鮮舞踊作品の中で出世作であり、ベストセラーでもあり、同時にステディセラーでもあった。この作品は、1931年5月の京城公演で「私たちのキャリカチュア(1931)」という題で初演され、1933年5月の東京日本青年館公演で「エヘヤ・ノアラ」という題に改称・再演され、その後1937年末まで日本、朝鮮、満州、台湾などで上演され続けた。
しかし、この作品は崔承喜の世界巡回公演で上演されたことがない。 1938年のサンフランシスコ公演(1月22日)とロサンゼルス公演(2月3日)、そしてニューヨーク公演(2月22日と11月6日)のプログラムには、「エヘヤ・ノアラ」は登場しなかった。 1939年のヨーロッパ公演でも「エヘヤ・ノアラ」は上演されたことがない。 「僧の舞(1934)」と「剣の舞(1934)」が米国や欧州の公演に欠かさず登場していたこととは対照的である。

なぜ彼女は世界ツアーで自らの代表作「エヘヤ・ノアラ」を上演しなかったのだろうか? 「私たちのキャリカチュア」が「エヘヤ・ノアラ」に改称されたように、世界ツアーでは「エヘヤ・ノアラ」が別の名前で上演されていたのではないか? まさにそうだった。
1938年1月22日付の『日米新聞』日本語版は、崔承喜のサンフランシスコ公演レパートリーを紹介し、第一部の第2演目を「朝鮮の高貴」と報じ、同じ新聞・同日付の英語版はそれを「朝鮮の貴族」と訳した。 「高貴」や「貴族(Nobleman)」は、朝鮮の両班階級を指す。
崔承喜の朝鮮舞踊作品の中で、男性の成人が登場する作品は「エヘヤ・ノアラ」だけである。 賤民階級が主人公の作品としては「鳳山タール」と「巫女舞」、「僧の舞」と「妓生舞」があり、平民女性の作品としては「農村の處女」と「アリラン」、戦士が登場する作品としては「剣の舞」と「高句麗の戦舞」がある。 両班が登場する作品は、両班階級の子どもが登場する「草笠童」と、両班階級の成人男性が登場する「エヘヤ・ノアラ」だけだった。

しかし、1938年2月10日付の『新韓民報』(2面)は、ロサンゼルスのイベル劇場公演のプログラムの中で、男性成人が主人公の作品として、3部2演目の「활랑무(ファランの舞)」を次のように紹介した。
「ファランの舞:戰笠を外し、快子を掛けて身にまとい、揺れながら踊る舞だ。」 身振り、肩の動き、目線、足の動き、さまざまなかっこよさをすべて披露する興奮のダンスだと考えている。」

「ファランの舞」は滑音調(euphony)現象に従い、「閑浪舞」を音のままに記録したものと考えられる。 閑良はもともと武科に合格できなかった若い士人を指す言葉だったが、時が経つにつれて「何もしないで遊ぶのが好きな若い男性」という意味に変わった。
しかし、「エヘヤ・ノアラ」と「閑良舞」には違いがある。 前者は中年男性の兩班が主人公だが、後者は若い男性の兩班が主人公だ。 崔承喜は、幼少期に酔って興奮し、グッコリのリズムに合わせて踊っていた父親をモデルに「エヘヤ・ノアラ」を振付したと語っている。 実際に「エヘヤ・ノアラ」の写真を見ると、崔承喜は中年の成人男性に変装しているが、「閑良舞」では、『新韓民報』の記述通り、戰笠を装着し、快子を身に着けた若い男性の姿である。

しかし、主人公の年齢にだけ違いがあるだけで、「エヘヤ・ノアラ」と「閑良舞」の内容は同じだ。 「酔っ払って興奮し、グッドギョリダンスを踊っていた中年の父親」の姿や、「身振り、肩の動き、目線、足取り、さまざまなかっこよさをすべて披露する興ダンス」を踊る青年の姿は互いに似通っている。

すなわち、崔承喜は「エヘヤ・ノアラ」の内容をほぼそのまま保ちつつ、主人公を中年の男性貴族から若い男性貴族に変えて「閑良舞」を再構成した。 そのため、「閑良舞」は進行速度が速くなり、ユーモラスな動きも多く取り入れられたのだろう。
一方、「閑良舞」を「花郞の踊り」と記した文献もあるが、これは『新韓民報』が紹介したタイトル「ファランの舞」を「花郞の踊り」と誤解したためである。 新羅の「花郞(ファラン)」も青年だったため、誤解の余地が増したのだろう。 しかし、世界ツアーまで、崔承喜が新羅の花郎を主人公にした作品を上演したことはなかった。 (jc, 2025/12/28; 2026/4/4) ⓒ趙正熙
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