[대금강산보] 20. ニューヨークホテル電話脅迫事件と『大金剛山の譜』

崔承喜はサンフランシスコとLAでそれぞれ1回ずつの公演をやっと終え、『大金剛山の譜』も上映できないまま2月3日ニューヨークに出発した。 ニューヨーク·ギルド劇場公演は2月19日に予定されている.

 

公演まで2週間の時間があったので、『大金剛山の譜』のニューヨーク上映のための書類作業と検閲を通過するための時間は十分だったはずだが、日本公館と朝鮮人同胞との対立的な雰囲気はさらに険しくなった。 朝鮮人同胞がユダヤ人、中国人と一緒になって崔承喜の公演をボイコットしたからだった。

 

中国人が乗り出したのは、日本の侵略戦争により、北京や上海、南京を奪われ、中国政府が瓦解の危機に追い込まれたためであり、ユダヤ人は、日本がナチス·ドイツと同盟を結んでいたため、反日デモと日貨排斥運動に積極的であった。 その他にも侵略的帝国主義国家である日本に抗議する米国内の社会主義者たちもこれに参加した。

 

1938年2月19日、ニューヨークで崔承喜の初公演が行われたギルド劇場

 

崔承喜はニューヨークで朝鮮人同胞から電話脅迫を受けたりもした。 鄭昞浩（1995:141、145）姜竣植（2012:210）は崔承喜が宿泊先のホテルに電話をかけた匿名の海外同胞が「ラジオ放送を通じて排日演説をしろ」とし「そうしなければ公演を妨害する」と脅迫したと述べた。

 

このような脅迫は深刻な犯罪行為だったが、2人の評伝者の記述で出処が明らかになってはいない。 姜竣植（2012）は、内容の類似性や叙述の構成からして、鄭昞浩（1995）を引用したものと推定されるが、引用の注はついていなかった。

 

最初の崔承喜評伝である高島雄三郎（1959）はホテルの電話脅迫事件に関する記述がなく、カン·イヒャン（1993）はホテルにかかってきた電話に言及したが、それが「脅迫」電話だったとは述べていない。 鄭昞浩（1995）は、別の資料を参考にしたとみられるが、それがどのような資料なのか明示しなかった。 金賛正（キム·チャンジョン）氏（02）とチョン·スウン氏（04）は、脅迫事件について言及しなかった。

 

評伝によって叙述に違いがあり出所も曖昧だが、崔承喜が受けたニューヨークホテルの電話脅迫は事実だっただろう。 記述が具体的で当事者でなければ分からない内容だからだ。 おそらく崔承喜や安漠から直接聞いた人の証言だろう。 安漠の弟安濟承(アン·ジェスン)、あるいは崔承喜の弟子で義理の姉金白峰(キム·ベクボン)だったと推測されるが、LA事件の証言のようにニューヨークの日本領事館を「大使館」としたことを見ると、証言者は同じ人、すなわち安濟承と見える。

 

そのうえ、同事件はその後、連鎖的な結果となった。 電話脅迫事件以降、「ニューヨークの日本大使館（=領事館）はニューヨーク警視庁に（崔承喜の）身辺保護を要請するに至り、ついに公演中に舞台の上やトイレまで警官が守る騒動」（カン·イヒャン、1993:137;鄭昞浩、1995:146;姜竣植、2012:211)が起こったという。

 

また、「街中では"崔承喜の公演を見るな"というプラカードが掲げられ、"メトロポリタンミュージックカンパニー"に崔承喜との契約を破棄する圧力が加えられた。 (鄭昞浩、1995:146) 結局、メトロポリタンミュージックカンパニーとの契約は破棄され、今後の崔承喜のアメリカ公演は全てキャンセルとなった。

 

1937年12月29日、崔承喜は米州巡回公演のため<秩父丸>に登り、サンフランシスコに発った。 この時までは、米国で大きな試練と難関が待っていることを知らなかった。

 

ニューヨークでの一連の事件が日本に誤伝され、崔承喜は自分を排日行為者と決めつけられ、安漠と崔承喜は急いで釈明の手紙を送り、これを収拾しなければならなかった。

 

このように急速に悪化する状況のため、崔承喜はニューヨークでも『大金剛山の譜』を上映できなかった。 鄭昞浩(1995:149)は崔承喜が「自分が主演した『大金剛山の譜』という映画を… 上映しようとしたが、このことも反日行為として監視される可能性があることに気づいたため取り消した」と述べている。

 

しかし、崔承喜がこの映画の上映をあきらめたのは、「反日行為として監視」されていたからではなかったのだろうか。 朝鮮総督府が外国上映のために製作した『大金剛山の譜』がニューヨークで上映されることを「反日行為」に分類する理由がないからだ。

 

『大金剛山の譜』を上映できなかったのは、それが日本映画だったからである。 当時、狂風のようにニューヨークを襲った日貨排斥運動の波の中でボイコットされることは明らかだったのだ。 (*)