「菩薩舞」(1937)は、崔承喜の世界巡回公演でセンセーションを巻き起こした作品である。 宗教的でありながら官能的な衣装、そして最小限の身体動作に伴う、ゆっくりだが華やかな手の動きが原因だった。 舞台中央に集中した照明の中で、神秘さに酔いしれる崔承喜の表情も見事だったと伝えられている。

「菩薩舞」は1937年4月初旬、李王職本庁主催の純貞孝皇后尹氏の慰問公演で「普賢菩薩」という題で初演された。 普賢菩薩は行願、すなわち実践の徳を象徴し、知慧の徳を象徴する文殊菩薩と共に釈迦牟尼を祀る挾侍菩薩である。
この作品は1937年9月27日、東京劇場で開催された渡欧告別公演でも上演され、プログラムに登場したタイトルは「金剛山双曲:A. 菩薩の図」であった。 「金剛山双曲」というタイトルから分かるように、この作品は舞踊映画『大金剛山譜』(1938)の挿入曲であり、「菩薩の図」という題名に示されているように、普賢菩薩の姿を描いた仏画から題材を得た作品である。

高嶋雄三郞の伝記『崔承喜(1959)』には「菩薩舞」の写真が2枚掲載されており、その写真説明(135頁、145頁)ではこの菩薩が「薩埵菩薩」であると記されている。 「普賢菩薩」と「菩薩の図」、そして「薩埵菩薩」が別作品なのか、あるいは同一作品の改作や改名なのかを確認するのは難しい。 これらの作品に関する文献資料が十分でないためである。
「薩埵菩薩」という名前は馴染みがない。 観音菩薩や地蔵菩薩、文殊菩薩や普賢菩薩のように、すでに仏教や民家で広く知られた信仰の対象ではないからである。 菩薩は漢字の菩提薩埵の略称で、サンスクリット語のボディサッタ(बोधिसत्त्व, Bodhisattva)の訳語である。 菩提(Bodhi)は「悟り」、薩埵(Sattva)は「存在」という意味であるため、菩薩は「悟りを求める存在」という意味になる。 しかし、悟りへの意志だけでは十分ではなく、継続的に慈悲と善行を実践し、涅槃に至ることを誓った人を指す。 現代ではその意味が緩み、仏教徒を日常的に指す言葉として使われることもある。

したがって「薩埵菩薩」とは「薩埵菩提薩埵」という語であり、「薩埵」が重複した名前なので、結局「薩埵菩薩」と「菩薩」は同じ意味になる。 そのため、崔承喜の「薩埵菩薩」が米国や欧州で上演される際には、「Bodhisattva」、すなわち「菩薩」という題で紹介されることが多かった。
「菩薩舞」は1937年9月27日の渡欧告別公演で「金剛山双曲 A. 菩薩の図」という題で上演されたが、12月5日に日比谷公会堂で開催された渡米告別公演では再演されなかった。 公演名が「渡歐」告別公演から「渡米」告別公演に変わったことは、その間に世界ツアーの最初の目的地がヨーロッパからアメリカへと変更されたことを示している。
1937年12月11日の『日米新聞』英語版(4面)と、1938年1月9日付の『オークランド・トリビューン(Oakland Tribune)』(43面)によれば、「菩薩舞」は1938年1月22日のサンフランシスコ公演で上演される予定だった。 しかし、1月22日付の『日経新聞』英語版(2面)と日本語版(3面)に掲載されたプログラムには「菩薩舞」が見られず、実際の公演では上演されていなかったことが分かる。

「菩薩舞」は1938年2月2日のロサンゼルス公演と2月20日のニューヨーク公演でも上演されず、同年11月6日のニューヨーク第2公演でようやく上演された。 11月4日付の『新世界朝日新聞』日本語版(3面)はこの作品を「菩薩」として紹介し、11月7日付の『ブルックリン・デイリー・イーグル(The Brooklyn Daily Eagle)』(12面)は「Bodhisattva」と報じた。
すなわち、世界巡回公演では『菩薩舞』が1938年11月6日の第2回ニューヨーク公演で初演されたが、これは『菩薩舞』が上演するには不十分と判断したチェ・スンヒがアメリカに到着した後も改作と練習を重ね、最終的にニューヨーク第2回公演で発表されたと推測される。

「菩薩舞」は1939年1月31日のパリ公演でも上演され、そのプログラムでは「仏教の雰囲気に深く浸った崔承喜は、落ち着きと優雅さを兼ね備えた仏教芸術の美しさ、すなわち純粋で静かな仏の清浄な心、すなわち涅槃のイメージを表現しようとしている」と解説された。 (jc, 2026/5/10) ⓒ趙正熙
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